アマチュア達による一年間の総決算。
スケートボードが見せる悲喜こもごもの人間ドラマ






今年もこの季節がやってきた。
アマスケーターにとっては一年間の総決算、AJSAのプロ昇格をかけた全日本アマチュア・スケートボード選手権。
ここに出場するためには、各地区で年間3戦行われているサーキットや、地域の選手権を勝ち抜かねばならず、はっきり言って出場するだけでも難しいコンテストであり、ここにたどり着くまでにもかなりの数のスケートボーダーが振るいにかけられている。
さらにプロに昇格できるのは、その中のわずか8名という狭き門。
プロ昇格を果たしたら2度とアマ戦に出ることはできないし、
プロ昇格を逃したら、また来年のアマサーキットを勝ち抜くしかないという天下分け目の戦いだ。
だからこそ、ここでは毎年笑いアリ、涙アリの人間ドラマが繰り広げられる。
それは今年も例外ではない。



会場となった東静岡アート&スポーツヒロバ



会場内はご覧の人だかり


会場は今年で3年連続となる静岡県の東静岡アート&スポーツヒロバ。
ストリートコースとしてはアールが多めの構成ではあるが、
セクションひとつひとつがかなり大きいので、かなりの上級者向け施設と言える。
オープン以降ビッグコンテストが数多く開催されており、
今回はオーディエンスもご覧の人だかり。



総エントリー数は82名



ジャッジ陣も全国から集まった

そして今回の総エントリー数は82名と例年にもれず、かなりの人数が全国から集まった。
全国各地から毎年ここまでスケーターが集うコンテストは、おそらくこれだけだろう。
ジャッジ陣も全国各地区から集めて地域間の偏りを無くすことで公平なジャッジングが可能となる。
今年は残念ながら九州の清水ジャッジが欠席となったが、東北から寒河江氏、関東からヘッドジャッジの冨田氏と亀岡氏、関西から塩谷氏、中部からは山西氏が集まった。

MCはAJSAではおなじみの本間氏に加え、地元静岡から新進気鋭のバンビ氏が担当。
また、今回はこの全日本アマに合わせパーク外もフィンガーボードのパークやスラックライン、レーザー光線のサバイバルゲームなど催しが行われ、お祭りモード溢れる雰囲気も会場を盛り上げていた。
それではコンテストの様子を見ていこう。




パーク外ではスラックラインにボルダリングなどの催しがいっぱい

まずはアマチュア選手権の前にキッズ・ジュニア・マスターズ・レディースから。
全日本アマは通常のアマチュア選手権以外にも4クラスのコンテストがあり、
老若男女様々なスケートボーダーが一堂に会し、楽しむというのも大きな魅力のひとつ。
今回は最年少が7歳、最年長が47歳という幅広い年齢層が参加してくれた。

ではその中でも、まずはキッズクラスからレポート。
キッズクラスというのは小学校3年生以下のクラスのこと。
この年齢ともなれば当然身体は全く出来上がっていない。
なおかつ会場が国内有数のセクションの大きさを誇る東静岡アート&スポーツヒロバとくれば、
ひと昔前ならばコンテストとして成立するのだろかという疑問を抱いてもおかしくはないが、
現在のスケートボードのレベルは、キッズと言えどそんな心配は杞憂と言える。
脚力はないものの複雑な回しトリックをしたかと思えばハンドレールもメイクしてしまう。
日本の未来は明るいと思わせてくれるには十分な滑りだった。



自身の身長からしたらかなりの高さ。3位の竹下煌輝によるB/Sボードスライド



この年齢でもコーピングオーバー。2位の井川二朗太のB/Sグラブエアー


この年齢でこのトリックをマスター。優勝した小西偉登のB/Sビッグスピンフリップ




続いてはジュニアクラス。小学校高学年のクラスだ。
この年齢になるとトップ3は完全にノーミスがデフォルト。
なおかつハンドレールではリップスライドやフリップインまでメイクしてしまうほど。
2010年代はスケートボードコンテストの低年齢化が一気に加速したが、
この現場では改めてそれを目の当たりにすることができると同時に、
ものすごいレベルで進化していることも実感することができる。



トリック数は少ないながら完成度の高いトリックで3位に。小野寺吟雲のブラントB/Sフリップアウト。



2位の山崎幹大はF/Sオーバークルックドグラインドを披露。パーフェクトなスタイル。



すべてのセクションをバランス良く攻めて優勝した薮下桃平。キックフリップF/Sボードスライド。




そして次は違う意味で毎回一番の盛り上がりを見せていると言っても過言ではないマスターズクラス。
こちらは35歳以上に出場資格がある、いわばオヤジクラスだ。
この年齢ともなれば、スキルの高さや勝敗よりもコンテスト自体を楽しむことや、
オーディエンスを盛り上げることの方に重きが置かれていると捉えることもできる。
ひとたび果敢なトライを見せれば、たとえトリックをメイクできなくとも会場は大盛りあがり。
特に関東アマに続き参戦した大島勝利は、順位は4位ながらもあえて演じたオーバーなリアクションと
豪快に突っ込む姿勢で、ここでもオーディエンスの心を鷲掴み。
抜きん出たエンターテインメント性は、ひょっとしたらこのクラスだからこそ出せるのかもしれない。



3位は昨年の覇者の山附直也。B/Sフィーブルフェイキーという渋いトリックチョイス



2位は優勝経験を持つピーター・フレイジャー。熟練の動きで魅せたノンオーリーのメソッドトランスファー



優勝を飾ったのは北海道からの刺客、赤前吉明。ご覧の通りキレキレのトレフリップをメイク



関東アマに続き参戦した大島勝利。盛り上げ役をかってでてランの後は本間氏とハイタッチ




現在の日本のスケートシーンを見ると、一昔前と比べて格段にレベルが上がったが、
ガールズのスキルアップも目を見張るものがある。
昨年出場していたライダーで今年も出ているのはわずか1名。
しかも2位だった織田夢海と中山楓奈はすでに今年開催されたSLSのファイナリストだ。
大幅にメンバーが入れ替わっても、前田日菜がハンドレールでB/Sフィーブルをメイクしたり、
たとえメイクならずともステアでハードフリップにトライするライダーもいたりと、
そのまま世界大会へ出ても十分に活躍できると確信させるレディースクラスだった。



3位の佐藤舞桜はハンドレールでB/Sボードスライドをメイク



2位の上村葵はヒールフリップでバンクへイン



優勝した北野朝戸のF/Sボードスライド。彼女はこのトリックをビッグハンドレールでもメイク




そしてメインイベントの全日本アマチュア・スケートボード選手権。
こちらは初日に予選と準決勝、2日目に決勝を行うので、
最後まで勝ち残った場合は6本ものランをこなすことになる長丁場。
準決勝の時点で16名に絞られ、そこからさらに半数が決勝へと駒を進むこととなる。
決勝に残った時点で来年のプロ昇格権利を獲得することになるので、8位と9位では天国と地獄。
今年も様々な人間ドラマが生まれた。
まず準決勝進出で涙を飲んだのが安部来夢。
中部地区サーキットを圧倒的な強さでトップ通過したにもかかわらず、
わずか1点差で予選敗退は相当な悔しさが残ったことだろう。
そしてプロ昇格をかけた戦いも、関東サーキットの決勝進出常連の犬川空汰が
9位であと一歩届かずという結果に。
それでは、ここから順に念願のプロ昇格権を獲得したライダーを紹介していこう。



プロ昇格が決まった瞬間、このように皆で喜びあい、称え合うのが姿に人間ドラマを感じる



8位は昨年プロ昇格を果たした池田大輝と同エリア、同世代の松本浬璃。クォーターでF/Sキックフリップを披露。決勝の2本目は負傷で途中リタイアとなってしまったが、プロ権利はしっかりと獲得。



“勝つ”滑りよりも”魅せる”滑りが印象的だった柿谷斗輝。このキックフリップ B/S 50-50をメイクした後の2本目では、逆側のハバでアーリーウープのF/S180オーバーにトライ。時間内でのメイクはならなかったものの、後に意地のメイク。



6位は中部地区を3位で勝ち抜いた斎藤蓮のF/Sブラントスライド。彼が所属するALL UNDER CITY勢は今大会軒並み好成績を残している。パークが人を育てた末に誕生した念願のプロだ



5位の中野虎大郎のキラートリックがこのスイッチF/S270ボードスライド。観戦に訪れていたボス、立本和樹の前できっちりと結果を残して見せた。



4位は予選トップ通過の加瀬悠月。決勝ではこのB/Sクルックドグラインドトランスファーフィーブルグラインドを抑えきれずにこの順位となってしまった。



3位の今村怜也によるぶっ飛びのトレフリップ。他にもステアでハードフリップをパーフェクトにメイクするなど高難度のトリックもねじ込み3位に滑り込んだ。



昨年に引き続き今年も優勝争いは関東と関西勢による一騎打ちとなったが、昨年の梅尾周生に続いて連覇とはならなかった。関西勢ではこの甲斐穂澄の2位が最高順位。安定感抜群のB/S180 ノーズピックグラインド





優勝した長谷川絢之介のアーリーウープF/SインディーエアーとB/S270ボードスライド


そして今年の全日本アマチュアチャンピオンに輝いたのは関東サーキットをトップで通過した長谷川絢之介。予選は2位、準決勝は1位通過とほぼパーフェクトな成績でチャンピオンにたどり着いた彼のライディングは安定感も抜群。最終的にはB/S270ボードスライドの270を準決勝でも決勝でもメイクし、決勝の2本目は今大会No.1の完成度となった。徐々にランの完成度が高くなるのは、まるで今年の彼を象徴しているようだ。関東サーキットでも初戦で初優勝を飾るとそこからみるみる成長。わずか一年足らずで劇的な成長を見せた成果が最高の結果で返ってきた。来年以降のさらなる飛躍に期待したい。



すでにプロ昇格権を手にしているライダーも一緒になって出場ライダーの滑りを称え合う



プロ昇格が決まりボスの立本和樹とハイタッチする長谷川絢之介



優勝決定の瞬間



AJSA初代会長であるアキ秋山氏も来場

こうして今年もアマチュアスケーターたちの一年間に及ぶ戦いは終了した。
この全日本アマはプロ戦に比べたらメディアの注目度やスキルレベルは低いかもしれないが、
それ以上に現場の熱気や空気感、そして何より来年1年間のライダー活動を左右するプロ昇格権争いによって
生まれる人間ドラマからは、プロ戦以上に熱いものを感じる。
こういったシーンを支える土台が確立されていることが、近年日本勢が世界で活躍できているひとつの要因なのかもしれない。











トップ3にはスケートボーダーが描かれたメダルが授与された


キッズクラスのトップ3


ジュニアクラスのトップ3


マスターズクラスのトップ3


レディースクラスのトップ3


プロ昇格を果たした8名のライダー達


全日本アマのトップ3


なお男女の優勝者には大塚食品よりクリスタルガイザー1年分12ケースを贈呈!






Photo & Text By 吉田佳央 (yoshioyoshida.net